関健二郎先生とブレインプロ
奥羽大学 薬学部棟
マウスを1ヶ月ほど1匹ずつ隔離飼育すると、顕著な攻撃性の増加や抑うつ症状を発症します。私たちは、あるとき偶然にもこのオイゲノール芳香を隔離飼育開始初日から1日10分ほど毎日嗅がせると、隔離飼育による攻撃性が顕著に低下し、また抑うつ症状も生じなくなることを見出しました。さらにこの長期隔離飼育マウスでは、ストレスホルモンである血中コルチコステロン濃度が顕著に低下することも分かりました※1。これはオイゲノール芳香にストレス軽減作用があることを示唆しております。
しかし、このオイゲノール芳香が人間にどのような効果を及ぼすかは不明です。例えば、マウスが本能的に恐怖を感じるキツネの分泌成分2,5-dihydro-2,4,5-trimethylthiazoline (TMT) を人間が嗅いでも臭いだけで、恐怖を感じることはありません。したがって、マウスの結果だけでオイゲノールにストレス軽減作用があると示唆するのは早計です。そこで喫煙習慣の無い健康成人男性にオイゲノールの匂い刺激を行い、心拍変動解析により交感神経と副交感神経成分の変化を調べたところ、このオイゲノール芳香により交感神経成分が有意に低下し、副交感神経成分は増加することが分かりました。また人間のストレスホルモンであるコルチゾールの血中濃度を調べると、3日間のオイゲノール芳香により顕著に低下することが分かりました。これはオイゲノールが人間に対してリラックス効果を発揮することを示唆しております。しかし、オイゲノール芳香によるこの効果が、本当にリラックス効果なのか、またオイゲノールの効果が脳を介して生じているのかは分かりません。
そこでこれらを明らかにするために、喫煙習慣の無い健康成人男性から脳波を測定し、α波の増加が認められるかどうかを調査することにしました。そこで脳波測定には、測定方法の簡便さと、解析結果の解りやすさから、フューテックエレクトロニクス㈱社製の簡易脳波計ブレインプロ、及びパルラックスプロを採用しました。オイゲノールが人にも有効であることが証明されれば、慢性的にストレス環境下にいる人にとって、簡便で且つ安価なうつ病発症予防の手段として様々な応用が期待されます。今回の実験が、うつ病発症予防の一助となることを期待しています。
1:「長期隔離飼育マウスの攻撃性獲得と抑鬱症状発症に対するオイゲノール芳香の予防効果」